ISOは科学的アプローチをすすめる(2)

『プロフェッショナルは「ストーリー」で伝える』(アネット・シモンズ著 海と月社)は良書だ。この本を手にした理由は「ビジネスモデル・ジェネレーション」(アレック・オスターワルダー&イヴ・ビニョール著 SHOEISHA)に感化を受けたからだ。タイトルをみて難しい本と思わないで欲しい。要は「ストーリー」「ストーリーテリング」ということ。今日、有能なビジネスマンに会った、初対面である。彼は、ビジネスマンとしての生い立ちを、ものの数分で述べ、我々から幾つもの質問を受けた。その分で、彼のストーリーテリングは成功したと言って良い。この稿で言いたいのは、実はISO9001もストーリーテリングであるということだ。

1.断片的知識はほとんど役に立たない
例えば、マーケティング。マーケティングは商品開発、事業開発のことであろう。それを、マーケティングの本を読んで、3C分析だ、PPMだ、いやSWOTだと言って、それぞれのパーツに詳しくなって、得意然としても、目的である商品や事業を創り出すことが出来なければ、何の意味もない。マーケティングが知識の範囲を超えない以上、中小企業の社長の発想力と行動力には及ぶまい。経営管理を知識ベースで捉えること自体が過ちである。いや、知識を否定するものではないが、経営あるいは経営管理とはそういうものだろうとあらためて思う。

2.科学的アプローチと標準
改善技法であるJMやIEは、作業を細かく分析する。細かく、細かく分けて、その中のムダを発見して、新たな作業のやり方を構築してそれを標準とした。科学的アプローチの一大成果である。その延長は、我々の思考方法にまで及ぶ。思考のムダも発見して、問題解決についての手順化を行った。先ずは、現状把握から入って原因を発見するのである。次に、主たる原因を特定して対策を練るのである。と言うくだり。まさに、手順化された思考プロセスは我が国の「カイゼン」を支える思考技術となった。が、問題がある。思考の硬直化である。それは、1990年バブル崩壊とともに発生した事業創造への対応不足であった。この時代の中心的世代は既に退職したので、今更、言及する必要はないが、ロボットのように手順化された思考は逆に創造を蝕んでしまった。

3.科学的アプローチとシステム思考
1990年以降はシステム思考の再登場である。数段高度化して我々の前に登場した。その代表例がISO9001である。顧客ニーズを満足する経営システムは幾つかの要素から成る。その要素をバランスよく満足することで、顧客の期待を創り出すことができるのだというもの。それを「仕組み」と評した。ISO以前は、プロセス即ち工程改善が品質確保の重要課題だった。それは違うと皆感じてはいたが、時代の趨勢に逆らう者はいなかった。つまり、要素の連鎖。これが全体をつくっているのだという認識。この糸を「ストーリー」あるいは「ストーリーテリング」と言うことにする。現場の社員も、一要素の責任者(オーナー)ではない。つながる糸を携える一人だと言う認識。顧客の満足をつくり出す「ストーリー」を語れる一人という意味がISO9001に隠されている。だから、システム、オーガニゼーション、チームと言う言葉が重要になる。

4.マーケティングらしいマーケティング
ISO9001はマーケティングテキストである。ISO9001をよく読んでほしい。これはマーケティングのテキストです。もう一つ、目標管理のテキスト。いやその合体。なんと素晴らしきかな。「ビジネスモデル・ジェネレーション」を先に持ち出した。これは、画期的で脱帽である。この書の良さは、初めて知を繋ぐことをしたということ。それも極端な手順化ではない。むしろキャンバス上で人々が創発しながら絵を描く(システムをつくる)というもの。パーツの総合であり統合である。これが、本来の学問ではないか?実学ならばなおさらではないか?知は知っている者と知らないものの隔たりをつくる。情報なんてもっとそうだ。それが、階層や職能をつくる根拠となっている。おかしなことです。

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