賃金コンサルティング導入に際して知っておくべきこと

私は、日本経営者団体連盟の地方組織に在職した。当初は調査担当として、県内企業の賃金や労働条件調査を行い、後半は教育訓練担当として、教育訓練に関わる企画・運営を行った。この経験がコンサルタントとして成立するバックボーンになっている。

1.日本の賃金制度について
日本の近代的賃金システムの基本形は誰が作ったのだろうか?賃金制度は法律的側面を有するが、賃金体系は法律によって強制されるものではない。あくまでも企業それぞれの政策によって決定される。したがって各社各様の賃金体系を有するが、その基となる理論の源流を辿ると二人の人物に行き着く。賃金コンサルと称する人々は、この二人の影響にある。

弥富賢之氏(1915 年~2008年):人事院給与局格付課長を経て、1953年本田技研工業に迎えられ、「新職能給」制度を確立。1960年に本田技術研究所取締役を退任し、1960年(昭和35年)に賃金管理研究所を設立。⇒「正しい賃金の決め方」1977年

楠田 丘氏(1923年~)昭和39年労働省統計業務指導官。昭和40年経済企画庁経済研究所主任調査研究員。昭和45年 日本賃金センター研究主任。現在、日本賃金センター代表幹事・日本生産性本部常任参与・同本部賃金制度専門委員会委員長。⇒「賃金テキスト」1972年

各氏の理論はそれぞれ弥富式楠田式と呼ばれている。弥富式は、その設計思想を“仕事と人”をベースとした(職務給×能力)として捉えている。賃金表や資格制度、評価制度は比較的単純である。一方楠田式は社員の能力及びモラールの向上をその目的として捉えているために、評価制度が極めて細かい。評価の対象は、成績、能力、情意(意欲態度)の3点である。「職能給」「職能資格制度」は楠田氏によって確立される。現在、弥富賢之氏の事業継承者は弥富拓海氏、その門下生に菊谷寛之氏(CRI中央総研と交流)がいる。

2.人事考課とは何か
人事考課をする人⇒考課者:部門長・管理職、人事考課を受ける人⇒被考課者:部下
(1)評価と処遇スポーツでは、パフォーマンスを「心」「技」「体」とするし、学問の世界では「知育」「徳育」「体育」とする。すなわち、スポーツだから「技」「体」、学問だから「知育」「体育」でよしとしない。スポーツでは「心」の強さ、例えば、“明鏡止水”のように動じない静かさや平らさを期待する。学問の世界も社会人として成立するあるいは社会に反しない行為を期待して“徳育”を大事にする。このように多面的な要素を積み上げて評価する。
では、ビジネスの分野は何で人を評価するのか?そもそも、ビジネスにおけるパフォーマンスとは、結果としての「業績・成果」と「行動」としてのプロセス(計画・過程)を言う。そのプロセスにさらにプログレス(進捗・進行状況)が加味される。これを前提にすると、結果評価、行動評価、即ち、プロセス(計画・過程)評価とプログレス(進捗・進行状況)評価の組み合せということになる。また、人の行動は、量・質・バリエーションとする意見もある(トーマス・ギルバート)から、態度評価が加わることになる。日本の人事考課制度にはこのような考え方がバックボーンになっている。

(2)評価は現場にある(目標と現状)評価のもう一つの側面は、目標と現状との関係にある。先のスポーツや勉学に例えるなら、彼らも当然、目標を持っている。ビジネスの場合は、P.F.ドラッカーを持ち出すまでもなく、もともと目標体系であるから、その成員は職務を通じて目標を持っていることになる。従って、その目標の内容とパフォーマンスを知ることが、評価の前提となる。当該組織における方針と目標が何であって、その成員をどのような管理項目によって評価しようとするのか、人事考課項目や要素を事前に承知し、普段からその視点に立って指導する。リーダーとしての支援的態度が期待されるのだ。

考課者訓練を単に評価テクニックに終始させるのではなく、日常における観察と指導が本質であると理解したい。そのためには、考課者と被考課者との距離感やコミュニケーションの量と質が課題となる。考課制度は、むしろ被考課者を鏡にして考課者自らが自己のマネジメントスタイルを顧みる絶好の機会だ。そこに、指導者論として、コーチングなどの技術が出てくる背景がある。

以上

This entry was posted in 人事・賃金制度. Bookmark the permalink.

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>