科学的思考と論理的思考とシステム思考

ここに「すべてのアメリカ人のための科学」(1989年 米国科学振興協会)という少し厚めのレポートがある。日本語版は2005年に発表された。このレポートの存在は驚愕であった。決して大袈裟ではない。1980年代日本経済はアメリカを席巻した。その源に、QCサークルル活動があること。デミング博士がいることをアメリカは認める。(「国際競争力の再生」吉田耕作著 日科技連に詳しい)

科学先進国アメリカが日本に抜かれる。戦後初めてアメリカが同盟国日本を競争者として意識した瞬間である。このままではいけない。それが科学的リテラシーの発揚としての本レポートの趣旨である。要約文に「アメリカにおける一般的な科学的リテラシーは低い」「科学的リテラシーとは、科学、数学、技術に関するリテラシーを包含し、教育の中心的目標として注目されるようになったものである」とあり、「科学的リテラシーを備えた社会の市民すべてにとって必要不可欠な理解や、思考の習慣についての一連の提言で構成されている」とする。
私が驚愕的というのは、アメリカは科学大国であるのにもかかわらず、そのアメリカが本レポートで提言したのだという事実。つくづく戦略的国家であると思うと同時に、国家、産業、教育を一体的に捉えこんでいく、国家としての長期的戦略観も同時に伺えるレポートなのである。ところで、このアメリカは科学だけではなくプラグマティズム(実用主義)を生み出した国家でもある。その科学とプラグマティズムの所産を、経営管理技術の中に見て見よう。

1.ジョン・デューイの「問題解決学習」アメリカにおけるプラグマティズムの代表者と言えばデューイ。問題解決学習とは、教師が予め準備した授業案に従って学習する(=系統学習)のではなく、与えられた「課題:テーマ」について、個々の生徒が平素、疑問に思っていることについて、それぞれそれがどうしてだろうと考え、その仮説が理にかなうかどうか、自分たちの足や頭、インタビューや実地調査を繰り返して確認していく。もし、外れているなら、また新しい仮説を立てる。その試行錯誤を繰り返すプロセスこそが学習の目的であるとした。
そう言えば最近NHKで話題になった、スタンフォード大学のティナ・シーリグ教授の「20歳のときに知っておきたかったこと」の教授法もこれに似る。

2.科学的思考(⇒F.W.テーラーの科学的アプローチから)
これまでの、経験や学習に基づく、その場しのぎの「成り行き管理」を改め、統一的で一貫性のある管理をめざし、より客観的な基準(標準化)による合理的な賃金決定のあり方を研究した。そのアプローチ法は、作業を要素作業に細かく分け、ストップウオッチで作業時間を計測し標準を割り出すこと。(作業研究:時間研究と動作研究と言う)また、観察と考察(観察⇒記録⇒分析)の方法を用いて作業の無駄を省く方法であった。

⇒分析とは、細かく分けること
⇒斧(おの・まさかり)、斤(まさかり)で分けること。

3.論理的思考(1)TWIのケース
TWI(Training Within Industry for Supervisors)は、第二次世界大戦当時、アメリカ合衆国の技術者たちによって開発・普及された監督者向けの訓練方式であり、戦後、我が国に導入された。今日にまで生産部門やサービス部門のほか、あらゆる業種の職場において活用され、多大の実績を上げている。

この訓練プログラムの基本理念は
① 人間性の尊重、すなわち人間一人ひとりの存在価値や尊厳を認めるということ
② 科学的接近、すなわち作業(業務)上のムリ、ムダ、ムラを取り除くこと
にあり、その特徴は
①  定型化(手順化)されていること
②  討議と実演によって行われること
③  知識より技能、すなわち「知ること」より「できること」を重視していること
④  講習の進行は平易であり、即効性があること
である。
監督者の定義
①  監督者とは部下を育てる者
②  監督者は部下を通じて成果をあげる者。
監督者にとって必要な能力(2つの知識と3つの技能)

①  2つの知識:仕事の知識/職責の知識
②  3つの技能:教える技能/人を扱う技能/改善する技能/これに安全作業のやり方が追加される。

論理的思考の一例をTWIの「人の扱い方(JR)」で見てみよう

・問題の起こり方(パターン)とは
① 「感知する」場合
② 「予期する」場合
③ 「向かってくる」場合
④ 「飛び込む」場合

・人との関係をよくするための基本心得
① 仕事ぶりがよいかどうか当人に言ってやる
・相手にどうして欲しいか決めておく・もっとよくやれるように導いてやる
② よいときはほめる
・平素ない感心な仕事や行いに気を付ける
・さめないうちに言ってやる
③ 当人に影響ある変更はまえもって知らせる
・できればわけを言ってやる
・変更を納得させる
④ 当人の力をいっぱいに生かす
・かくれた腕をさがしてやる
・伸びる道のじゃまをしない

職場の問題の扱い方の4段階
「目的を決める

第1段階「事実をつかむ」
① 今までのことを調べる
② どんな規則やならわしがあるか
③ 関係ある人と話す
④ 言い分や気持ちをつかむ
⑤ いきさつ全部をよくつかめ
第2段階「よく考えて決める」
① 事実を整理する
② 事実互いの関係を考える
③ どんな処置が考えられるか
④ しきたりと方針を確かめる
⑤ 目的にはどうか、当人には、職場の者には、生産には、どうひびくか
⑥ 早合点するな
第3段階「処置をとる」
① 自分でやるべきか
② だれかの手伝いがいるか
③ 上の人に連絡せねばならぬか
④ 処置のころあいに注意する
⑤ 責任を転嫁するな
第4段階「あとを確かめる」
① いつ確かめるか
② なんべん 確かめねばならぬか
③ 出来高や、態度や、お互いの関係はよくなったか
④ その処置は生産に役立ったか
「目的を達したか」

(2)QCストーリーのケース

統計的解析技術としてのQC7つ道具(⇒科学)
・特性要因図
・チェックシート
・ヒストグラム
・散布図
・パレート図
・グラフ・管理図
・層別

② QCストーリー(問題解決手順)
・テーマ・ 取り上げた理由
・現状の把握
・ 解析
・ 対策の立案
・ 効果の確認
・ 歯止め
・残された問題と今後の進め方

4.システム思考
1990年代に入って、ISOの登場と機を一にして、「部分最適化から全体最適」という全く新しいパラダイムが登場した。そのベースがシステム思考である。システムの定義は諸説あるが、私は
定義1:システムとは、① 環境から影響を受け(input)、② 環境に影響を与える(output)もの
定義2.①目的があること、②目的を実現するための要素があること、③要素が関係し合っていること、④目的を実現する上で要素が最適な関係であること、⑤目的は環境に影響を受けること(与えること)

であると定義する。

国内におけるP.センゲの研究家達は
多くの要素がモノ、エネルギー、情報の流れでつながり、相互に作用しあい、全体として特性を有する集合体 と定義している。

デミング博士はシステムを
「システムとは、目的を達成しようとして協力する、相互に依存し合う複数の独立した構成要素結合組織(ネットワーク)である。システムには、目的がなければならない。目的がなければシステムは存在しない。システムの目的は、その構成員全員にとって明瞭でなければならない。また、目的は将来への計画を含んだものでなければならない、目的とはある種の価値判断である(もちろん、ここでは人が作ったシステムのことを話している)。構成要素は、必ずしも明確に定義づけられ、文書化されている必要はない。各構成要素にいる人々は、単に必要なことをやりさえすれば良い。したがって、システムの運営管理には、システム内のすべての構成要素間の相互関係や、そこで働く人々に関する知識が求められる。システムは管理されなければならない。というのは、システムが自らを管理することが出来ないからである。西側世界では、システムの構成要素にしたい放題させるために、利己的で、競争的で、それが別々のプロフィットセンターになり、かくしてシステムを破壊してしまう。秘訣は、組織の目的に向け構成要素間で協力を図ることである。今、競争によってシステムが壊れていくのを放置しておくわけにはいかない。」とした。(「デミング博士の新経営システム論」 W.エドワーズ.デミング著 NTT出版)

またP.F.ドラッカーは「…報告書その他の様式が、アマゾン河流域の森林のごとく繁茂し、その複雑性、繁雑さのために、そのものが窒息死する寸前にまで追い込まれている」とシステムの逆機能とも言うべき特性を指摘している。

ISO9001ではシステムとは:相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり。マネジメントへのシステムアプローチとは:相互の関連するプロセスを一つのシステムとして明確にし,理解し,運営管理することが組織の目標を効果的で効率よく達成することに寄与する。(ISO9000より)

従って、これからはシステムをマネジメントする力(これを「システムマネジメント」と定義する)が求められる。具体的には
1.プロセス理解とシステム理解
2.インターフェース問題解決

3.監視・測定・分析・改善(⇒科学)

4.システムデザインとシステムの再構築

であろう。

以上、テーマに沿いながら概観した。組織はこの全体像を理解しながら、かつ組織の成熟度を把握した上で、課題を設定したいものである。

むすび
私は、30歳代で、TWIのトレーナーになり、KYT(危険予知訓練)を故角本定男氏(元中央労働災害防止協会調査研究部長)の鞄持ちをしながら群馬県に広める機会を得た。青年期である1970年代、80年代はQC活動真っ盛りで、数々の発表会を見ることもできた。その後、本文では触れなかったがKT法(ケプラー&トリゴー法)にも触れる機会を得ている。このKT法にはリスク分析もあり、今日のリスクマネジメントにも立派に通じるものである。
という訳で、私し自身が、科学的思考、論理的思考、システム思考にどっぷりつかりながら今日に至った訳である。当社の「管理監督者研修」や「内部監査員研修」は、これらを踏まえた上で企画している。

環境変化が激しくなると、必ず書店に「思考技術」に関する書籍が登場する。マネジメント能力を手助けしてくれるものが、この科学的思考、論理的思考、システム思考であり、これらは同時にリーダーシップをも開発してくれるだろう。

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