新たな「能力開発」を提唱する 2

先に、TWIやQCに代表される「改善アプローチ」と、ISOに代表されるような「ビジネス改善モデル」の違いを説明した。この違いについては「ISO9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年 Steve Tanner著 平林良人翻訳 日本規格協会)に従った。1990年以降、経営権理論が大きく変わったように、能力の定義も微妙に変わってきている。次項ではその辺も詳しく見ることにする。
CRI中央総研は「人事の時代」を標榜して、年2回ほど公開セミナーを開催している。人事担当者の方に一番留意頂きたいのは、ともすれば陥りやすい「パッチワーク的な研修体系」から、「経営、人事全体を見渡した体系的な能力開発」を再構築する必要性を是非ご理解頂きたいと考えている。以下に、検討いただきたい諸点を列記する。

2.新たな能力概念
(1)スキルと力量とコンピテンシーの違い
① スキル(skill)とは
・知識、技術、技能、腕前
② コンピテンシー(competency)とは
・知識技術を保有しているだけではなく、発揮していること。
・結果や成果と結びつく能力、その特性

注:ISOにおける能力の定義
3.1.5実現能力(capability)
要求事項(3.1.2)を満たす製品(3.4.2)を実現する組織(3.3.1),システム(3.2.1)又はプロセス(3.4.1)の能力。
注記 統計の分野における工程能力の用語は,JIS Z 8101-2 に定義されている。
3.1.6力量(competence)
知識及び技能を適用するための実証された能力。
注記 この規格では,力量の概念を一般的な意味で定義している。他の規格では,この用語の使い方がより固有なものとなり得る。

※但し、英語圏では、コンピテンシーよりもコンピテンスの方が普通に使われる。コンピテンシーはコンピテンスの古語。

(2)組織能力とは① コンピテンス(competence)
・長時間かけて築き上げられた、他社が簡単に真似したり、盗んだりすることができない能力。
・中核能力
② ケーパビリティ(capability)
・コアコンピタンスのオペレーション能力
・全社能力

(3)システムの特徴は「つながり」と「相互関係性」
① つながり、関係性、インターフェースを対象とした問題解決の必要性
② 例えば報連相についても
・ 従来型報連相は
⇒「ほうれんそうが 会社を強くする」(1989年 山崎富治著 ごま書房)
・ ISO型報連相は
⇒ つながり、相互関係性強化型の報連相

(4)経産省、文科省が求める今日的課題としての能力
① 経産省「社会人基礎力」H19
・前に踏み出す力(アクション)
・主体性
・働きかけ力
・実行力
・考え抜く力(シンキング)
・課題発見力
・計画力
・創造力
・チームで働く力(チームワーク)
・発信力
・傾聴力
・柔軟性
・情況把握力
・規律性
・ストレスコントロール力

② 文科省中教審答申「キャリア教育、職業教育」H23
・基礎的・基本的な知識・技能
・基礎的・汎用的能力
・キャリアプランニング能力
・課題対応能力
・自己理解・自己管理能力
・人間関係形成・社会形成能力
・論理的思考力
・創造力
・意欲・態度
・勤労観・職業観等の価値観
・専門的な知識・技能

(5)ISOが求める能力
① プロセスアプローチとシステムアプローチ
② 是正処置、予防処置
③ 監視、測定、分析、改善
⇒科学する技術
⇒継続的改善の技術
④ 2015年から「プロセスマネジメント」が導入される

(6)能力評価の現状と課題
① TWIベースの訓練予定表時代
② ISO型スキルマップ(星取表:成熟度評価:ISOTS16949)
③ 更に、上記で提示した“新能力要素”をどう育成・開発するか(⇒プログラム化)
④ 部門・個人目標と能力開発目標とのリンク

(7)成熟度評価モデル
a. 個人の成熟度評価としての「ドレファスモデル」とは
① 初心者
状況に左右されない。ルールを与えれば、それなりに仕事を行う事ができる。しかし全く知識も経験も不足している為、想定外の事が起きるとパニックになり、全く対処できなくなる。
② 中級者
ほんの少しだけ決まったルールから離れることが出来るようになる。目の前の問題を処理する為の、実践的な情報を取得する事には興味があるが、細かな理論的な説明を読んだり、基本から学び直すような事は望んでいない。全体的な理解はしておらず、理解したいとも思っていない。③ 上級者
問題領域の概念モデル(基本型)を発展させて、そのモデルを使って効果的に作業ができるようになる。また、物事の問題解決をする事ができるようになる。しかし問題解決する際にどこに焦点を当てるかは上手くいかない事もよくある。このレベルの人を形容する言葉としては「指導力がある」「臨機応変な対応が可能」など。

④ 熟練者
技能を取り巻く更に大きな概念の全体像を理解する。自らを振り返り、次回のパフォーマンスを改善する為に、自らの取り組みを修正する事ができる(この段階に達するまでは、この種の行いは全く不可能)。他人の経験や格言からも学ぶ事ができる。十分な経験により、特定の状況(コンテキスト)から、何が起きるかが予測でき、もしそうならなかった場合は、何を変えなくてはいけないかが分かる。そしてリフレクション(振り返り)とフィードバックを目一杯活用する。(⇒ダブルループ学習)
⑤ 達人
絶えずよりよい方法を模索する。膨大な経験から、状況に合わせたピッタリな方法を引き出す。膨大な経験と知識に裏打ちされた情報を基に、直感で行動する。膨大な情報を基とした、その行動の理由を説明するのは容易ではなく、達人自身にも上手く説明ができない。
参考「職場が生きる、人が育つ「経験学習」入門」(松尾 睦著  ダイヤモンド社)

b.組織の成熟度評価
JISQ9023とISO9004の成熟度評価例
前出のように、個人能力と組織能力とは違う。(ISO9004を参照のこと)

評価の骨子は、評価要素ごとに
⇒仕組みはあるか?

⇒組織が使いこなしているか?

⇒その仕組みは成果を上げているか?

という内容である。

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