新たな「能力開発」を提唱する 1

時代が変わると時代が期待する能力も変わる。従って、能力開発のアプローチ技術も変わらなければならない。1990年を境に、従来の「改善アプローチ」に加えて、ISO9001に代表されるような「ビジネス改善モデル」が登場した。今や、組織の成熟度に合わせながら、事業改善モデルと事業改善アプローチをうまく組み合せて、俊敏で創造的な組織の実現をめざす必要がある。国際化とIT化と呼ばれる得体の知れない変化の中で、Japan products & Japan Qualityを復活させるためには、組織の成熟段階に見合ったコンサルティング支援が必要であろう。コンサルタントの新たな課題であると考える。

1.戦後経済と経営管理技術の変遷
(1)TWIの時代
TWI(Training Within Industry for Supervisors)は、1948年にアメリカから、監督者  訓練ログラムとして導入された。

その特徴は
① 監督者の定義
・監督者とは、部下を持つ者、部下の仕事を指図するもの。
・監督者は部下を通じて成果を上げる。
② 監督者にとって必要な能力
・二つの知識(仕事の知識、職責の知識 )
・三つの技能(教える技能・人を扱う技能・改善する技能)
③ 3+1のプログラム
・仕事の教え方(JI)
・人の扱い方(JR)
・改善の仕方(JM)⇒IEへ発展
・+安全作業のやり方(JS)
④ 記憶に頼るな、手引きに従え
・手引き(マニュアル)があり、指導内容が手順化されている。(誰が教えても同じ内容)
⑤ 管理技術を技能化(OJTプログラム)
・管理(management)=技能(skill)=できる腕前に
・トレーナー養成(8日間プログラム)
・各プログラム(2時間×5~6会合=10~12時間)
⑥ 問題解決を手順化

提供される主な改善ツールは
① JI(作業分解シート・訓練予定表・仕事の教え方)
② JR(基本心得・職場の問題の扱い方)
③ JM(作業分解表・5W1H法・改善の仕方)
④ JS(災害連分析・安全作業のやり方)

「知ってらあ」「分かってらあ」から、「できる」へ
上記TWIの中の「仕事の教え方」では、監督者は部下に対して、仕事の教え方の手順に従って仕事を教えることが、最も合理的且つ効率的であるとした。監督者が誰でもこの手順に従えば、教え方の上手な監督者と同じように教えることができる。間違った教え方、即ち。標準を逸脱した教え方にならないことを強調した。即ち「教え方」そのものも標準化したのである。
また、「訓練予定表」を活用することにより、「誰を・どの作業に・いつまでに」教育訓練しなければならいか、訓練の必要性を早期に発見し、計画的にOJTを行うことを提唱した。さらに、教える技能を高めるために、「作業分解」をすすめた。この作業分解は、仕事を手順と急所に分けることによって、相手が理解しやすいように工夫したもの。これが、作業指示書、作業標準書、マニュアルと呼ばれるものの原型となった。

問題点は① 管理技術の標準化であり、一定の効果はあるが、創造的な問題には弱い。
⇒テクニカルスキルとしてトレーニングしており、コンセプチュアルスキルとしては弱い。
② 1990年代「訓練された無能」と揶揄された。

(2)QC・TQCの時代
1950年に実施された、財界向けの「デミングセミナー」から始まる。

その特徴は
① 問題解決ストーリー
・問題解決型(原因結果系)
・課題設定型(目的手段系)
② 統計と問題解決技法の活用
③ 小集団活動と発表会
・参画
・組織学習の形成⇒野中郁次郎の知識創造
④ デミング賞
・地区、全国へと段階的に上がっていく

TQCの特徴は
① 日常管理と方針管理
② 要素別ないし機能別管理
③ 評価尺度としての管理項目
④ 社長診断

提供された主な改善ツールは
① QC7つ道具(管理図・パレート図・ヒストグラム・特性要因図など)
② 統計手法(グラフ化など)
③ 新QC7つ道具(親和図・アローダイヤグラムなど)
④ 経営計画のフレームワーク(方針管理)

問題点は
① 発表のための発表(手段の目的化現象)
② バブル崩壊でQC、TQCも手放した(何故?)
③ 総本山主義、権威主義
⇒『日本的経営の興亡―TQCはわれわれに何をもたらしたか』(徳丸壮也著ダイヤモンド社(1999年)

(3)ISOの時代
1990年のバブル経済の崩壊とグローバル化をきっかけに、まったく新しい管理手法が導入 された。それが事業改善モデルとしてのISOである。ISOには「規格要求事項」があり、その 内容を組織内に「仕組み」として構築し運営する。要はマネジメントシステムの構築であるから
① システム理解力
② システム構築力
③ システム運用力
④ システム改善力(継続的改善)
が必要になる(⇒三谷は“システムマネジメント”と定義する)。特に、社員全員が理解し活 用するためには、構築段階から運用に至るプロセスで、理解促進のための”策”が必要であろう。これは、これまでのQC型教育とはまったく異なるものである。

その特徴は
① プロセス概念にシステム概念を持ち込んだこと
プロセスを明確にし、システムとして運営管理する
・システムをつくる、システムを運用する、システムを改善する(⇔継続的改善)
② プロセス間の相互関係性をマネジメントする
・プロセスの相互関係、特にインターフェース(接続部、界面、接触面)に注目
③ 新たな職能
・品質管理責任者
・内部監査員
⇒但し、自らの仕事を監査してはならない。

提供された改善ツールは
① 特にないが 強いて挙げれば
・是正処置と予防処置(規格書に手順が示されている)
② 別途、ISO19011(マネジメントシステム監査のための指針)がある

問題点は
①  ISOマネジメント(QMS)が組織内で十分理解されていない。
②  そもそも”システムとは何か”について理解していない。
③  一部において複雑化、専門化の傾向にある。
④  成果の割に、維持管理コストが高い。

【要素還元法とシステムズアプローチの混同】
ある複雑な事象を理解しようとするとき、その事象をいくつかの単純な要素に分割し、それぞれの要素を理解することで元の複雑な事象を理解しようという考え方を要素還元法という。論理的に問題の構造を理解するための代表的な手法である 。この要素還元法の前提にあるのは、ある事象や現象は独立した別個の要素に分解できるものであり、分解した要素のいずれかまたはいくつかに問題が潜んでいる、さらに、その要素を再び組み上げると、ある事象や現象が再現され元通りに機能する、といった考えである。しかし、この方法は大きな問題をはらんでいる。まず、分解された要素の相互関連性や影響関係が見えないという点である。(たとえばエンジンなど、まさに要素たる部品を組み上げてつくられた機械などに置き換えて考えると分かりやすい。要素還元的な考え方では、分解したパーツのどれか、あるいはいくつかが個別の問題を抱えているとする考え、これを分解して問題個所を特定しようとする。しかし、たとえばパーツどうしがお互いに影響しあって高熱を発する、あるいはそれぞれの寸法の誤差が累積して異常な振動が起きる、といった影響に関しては考慮されないことになる。問題の構造を機械的なメカニズムとしてとらえていることになるわけだが、こうした考え方では問題を構成する要素への個別な対応以外は不可能となる。つまり、問題Aに対しては対処法A、問題Bに対しては対処法Bといった対応が前提になっている考え方であり、もともと、ある構造が全体にわたって保有する問題(たとえば組織カルチャや行動パターンなど)に働きかけるような解決は行えないことになる。)

これに対してシステムズ・ダイナミクスの領域で提唱される「因果関係のループ構造(Causal Loop Diagrams)」というものがある。この考え方は、対象をひとつの動態的な系としてとらえようとする。そこにある活動(アクティビティ)や事象・現象が連なる連鎖・循環構造を特定し、それを生み出している構造を変革することによって問題解決を図ろうとするものである。生み出される現象や結果は、さまざまな要因が複雑に絡み合ったものとしてできあがるようになってきており、自然科学でいう生態系の様相を呈している。したがって、単純な要素に分解しただけでは、本当の要因や原因がつかめないとする。(参考:「学習する組織」P.センゲ著、他)      続く

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