日 時:平成29年4月20日13時30分から
場 所:群馬ロイヤルホテル2階「まゆだま」
講 師:
第1部 長谷 直太郎 氏 日産プリンス宮城販売㈱元社長
第2部 坂部 正登 氏 ㈱坂部チームワーク経営・坂部実践塾代表
第1部「私はこうして人と組織を強くした」
この90年間失敗ばかりだった。後悔することばかり。その間に手術で3回腹部の手術をした。社長の仕事とはなにか。4-5人の会社の社長なら、自分の持っている知識や技術を見せてあげれば、社員はついてくる。どうして社長を20年も出来たかを振り返ってみると、1つはお腹を切るくらいストレスがあったが、それでもなおやっている姿を見た社員ががんばってくれた。社長の仕事はやってみせることばかりではない。
人間はやる気というものをもって生まれてくると考えている。そのやる気を殺すか生かすかは社長次第。自分は家で父親のやっていることや言っていることを見て、こんな父親は嫌だと思いながら青年時代を過ごした。だから結婚した翌年に東京に出た。
日産プリンス宮城販売はわたしが社長になるまで15年間赤字で、社長が4人も5人も交代した。前任者は組合から連判状が出た。私は当時日産プリンスの課長をしていたが、現場の問題が集約されて全部私の元にやってくる。そのときの問題の第1の理由は、彼が飲んべえで荒れること。近隣の飲み屋から日産プリンスの予約を断られるほどだった。
社長に就任して2年で黒字になった。理由は私が酒を飲まなかったので、組合の要求がかなったということ、もう1つは社員に心から感謝の気持ちを持っていたこと。私が就任したときは、20人が引き抜かれるなど組織がめちゃくちゃだった。ろくに返事もしてくれない状態だった。
これは精神的に入れ替えないとだめだと思って、私が就任前に経験したLT(Laboratory Training)を実施した。山の中の一軒家に十日間缶詰にする一種の座禅のようなもので、とことんまで追い詰める役の人がいる。例えば「今この場で休憩にして席を立っても、皆さん元の場所に座ると思う。講師との距離、隣の人との距離…席が変わると落ち着かない。それはなぜか」ということを1日掛かって問い詰められる。なんと答えて良いか分からない。3人くらいのグループごとに課題を出されることもある。こういった研修を受けてから社長になる。
このLTを社員に行ったら、最初の夜、最年長の社員がこの研修をやめてくださいと言ってきた。どうしてかと聞いたら、みんながそう言っているという。説得できないのかというやりとりが夜まで続いている間に、社員11人全員が車を置いて窓から逃げてしまった。これはダメだと思った。近くにある温泉宿を1軒ずつ訪ねて探した。やっと見つけた6人をホテルにつれてかえったが、残りの4人が見つからない。後で分かったことだが、彼らは寺や橋の下、土産店、民家の軒下等に逃げていて、次の日タクシーで帰ったらしい。
こうした状態から私の社長はスタートした。胃に穴が空いた。LTを途中で逃げ出した4人は辞表を持ってやってきたが、それはいくらなんでも受け取れない。奥さんと来てもらって1人ずつ説得した。結局、なんとか誰も辞めなかった。このように、私は社長だという意識だけでやっていたので、苦労した。私自身も受けたが、社員にもあらゆる研修を受けさせた。
営業支部が当時15あったが、社長会議をやめた。社長が参加した会議は社長の独演会になる。そんな会をいくらやっても、やらされる場になるだけ。社内では会議という呼称もやめた。みんなにどうしても聞いてもらいたいことは、ミーティングと呼んだ。ミーティングはみんなの集まりで、社長も部長もない仲間の集まり。
私の時代は日本経済の最も成長した時だったので、私に能力がなくてもその気になってやってくれる人が10人のうち3人もいればなんとかなったが、今は違う。10人のうち10人がやる気をもってやってくれないと、会社が生き残れない時代になった。
各営業所に1人から3人いた女子社員に、営業所の損益管理を任せた。車の仕入れ価格を教え、みんなの給料を教えた。車の仕入れ価格は営業担当や部長にも教えていないこと。そうするとびっくりするようなことが起こった。
営業担当は車を使う。ガソリンをどこで入れるか決められていないので、みんなそれぞれの場所で入れており、みんな単価が違う。所長のガソリン単価が最も高かった。そこで、許可がなければ社長でも参加できない女子社員の経理研究会で、どうやってガソリン価格を下げるかを検討してくれた。彼らは営業担当の名前を一面に書き、その下にガソリン伝票を貼り付けるようにした。そうすると営業所のガソリン代が毎月のように下がっていった。
300人くらいいた会社だが、営業所の損益管理を女子社員がやるようになってから、タイムカードをやめた。タイムカードをやめたら遅刻者がいなくなった。タイムカードがあると、始業時刻までに押せばいいという考えになるが、タイムカードがないとみんながきているのに自分だけ遅く行くわけにはいかないと考えるようになり、8時30分の始業だったのが8時には全員が揃うようになった。
歩行ラリーというものがある。歩行ラリーで、やらされる集団からやる集団に変わった。歩行ラリーとはテーブルがあるような研修の場ではなくて、屋外。コマ図には曲がる場所しか書いて無くて、あとは道なりに歩く。でも指示通りに歩けない。こういう場所にこういうものがあるという事実を見ながら歩いていく。これが中々大変。
私が会社の意識改革をしてやろうという思いで研修をしたが、それは私の思いであって、みんなの意識は自分が正しいということだった。意識というものは間違えているとか直してやろうとか人に言われることではないということ。事実をやりとりすることは納得する。事実とは目に見えるもの、手で触れるもので、思いではない。
東京にいた頃、杉並支店長を3年ほどやったが、杉並支店も設立以来15年ほどだったが1度も利益を出したことがなかった。そういった店舗を損益で1番2番にした。そのことが認められて仙台に行った。仙台で右腕として支えてくれた同じ出向社員の岡田さんは群馬の出身者。プリンス群馬も赤字の社長だったが、岡田氏が社長をやっている間に立て直した。彼が10年ほど群馬にいてから仙台にかえってきた。なぜかと問うと、社員を60歳定年でやめさせていて、社長職は65歳までできるルールにも関わらず、自分も60歳になったのでやめてきたという。
退職後2度、脳梗塞になった。1度目の脳梗塞のときは、散歩しようと車でコースまで移動したら、車を下りるときに左半身が動かなかった。早歩きで血流を激しくすれば血栓が飛ぶのではないかと思って、妻の肩を借りて歩いているうちに、血栓が取れたのか歩けるようになった。
2度目は今年。手は動くが足は動かない。看護師に止められながら足を引きずって歩いているうちに3日ほどで足を運べるようになった。何でもやってみるということが大事。
第2部「<チーム・マネジメント>とは何か」
我々人類が経験したこともないような場面にさしかかっているが、<チーム・マネジメント>という方法は、どんな社会・団体であれ有効に作用すると確信している。そういったことを、事例を交えながらお話したい。
例えば学校では、不登校や異性不純交遊などで20年前から荒れている。今では問題が更に見えなくなってしまって、人を殺したり殺されたりすることまで起こっている。多度津中学校というマンモス学校での教育改革を手伝ったことがあるが、現実に問題を抱えている人や抱えている場所ほど、問題を解決すると大きな力を発揮する。
先ほどの長谷先生の話の中にタイムカードの話があったが、Sonyの工場でタイムカードを廃止したら遅刻がなくなったという出来事が「ソニーは人を生かす」という本で紹介されたことがある。それを真似てタイムカードを廃止したら、10時になっても誰も来ないという会社が続出した。タイムカードを廃止して遅刻がなくなるということは、その体質ができている、あるいはできつつあるということ。
また、女性社員がガソリン代を軽減するための取組みをしたと言う話があった。これは日産プリンス宮城の体質改革に大きく寄与した出来事だと思う。各人のガソリン代を張り出すということは、すごいこと。普通は「高い代金だった人は格好悪い」などと抵抗が出る。しかし事実とは「高い」とか「安い」ということではない。「あなたは210円、あなたは190円」と、それだけのこと。「高いからいけない、安いから良い」と思うから問題になる。
日産プリンス宮城では雪が降った朝早くに出社して、展示してある新車に積もった雪を下ろすようになった。そのことを社長が知らなかった。ふつう、雪の降った日は車が売れないような気がするが、日産プリンス宮城では売れる。地域の評判になっていた。
トップダウンであれ、ボトムアップであれ、問題発見を飛ばした問題解決には意味がない。問題発見をするというのが一番大切なところ。問題発見からは事の本質が見えてくる。
今最も<チーム・マネジメント>が注目されているのはスポーツ界。帝京大学のラグビー部は、全日本大学ラグビー部の大会で8連覇している。それまで早稲田や明治大学が強豪で、帝京大学は有名無実だった。その帝京大学の岩出監督は、ラグビーを教えない。選手の中にコーチを作って、選手が自分達の練習を自分達で考えてやるから、監督がやるより厳しい。たまに監督が「正月くらい休め」と言えば、ますます休まず練習をする。長谷先生の話に似ている。「人と組織を作る」というのが、この監督のベース。選手が社会に出たとき、社会に役立つ人材を作りたいんだと選手にも言っている。もう1つは箱根駅伝の青山学院大学も注目されている。あの大学の監督も、「あんなに厳しい練習を誰かに言われてできるものではない。強い体を作るのは君たち自身だ」と言っている。
トップ・ダウンのマネジメントとボトム・ダウンのマネジメントがあると言われるが、それは上からか、下からかということだけであって、重要なことではない。どういう意味の話をトップ・ダウンしたのかということが重要。
問題発見と問題解決という2つのプロセスがある。ほとんどの社長は早く答えを出したくて問題解決にいきなり入ろうとする。しかし問題発見を飛ばした問題解決は効果が薄い。問題発見が一番大切なところ。リーダーのやるべきことは問題を見えるようにしてあげること。どこが問題なのか、ヒントを言って、見つけさせる。これには発想法が有効。ひとつひとつのカードに事実が書いてあって、そこからまとめていって問題を見つける手法。これによって事の本質が見えてきて、問題解決がスムーズに行く。
問題発見する際に、定性的データ(ことば)を発想法でまとめることで、物事の本質が見えてくる。3-4日かかるが、問題のポイントがどこにあるのかを聞いて10人集まって話し合えば、自社の直面する問題が見えてくる。これを共有する。そうすると次は解決の段階で、定量的データを分析すると、物事の法則性が見えてくる。
今起こっている問題の本質を捕まえて全員が共有化して、法則性が見えれば、その問題は向こうから消えていくように解決する。<チーム・マネジメント>はこの2つを最も重要視している。
CRI中央総研のセミナー、コンサルなどのあらゆる事業は<チーム・マネジメント>による指導に切り替える。
経営者の方にぜひ来て頂きたいのは実践塾。管理・監督者の方々には錬成道場というコースを用意している。自社の体質を強くするために是非参加してほしい。「良い研修コースができたそうだから行ってこい」といって自分が行かない社長では、<チーム・マネジメント>になっていかない。長谷先生は自分が全ての研修に出て、良いと思った者を社員に行かせる。そうすると社員も納得しやすい。
もう1つ、長谷さんが言っていたことに、歩行ラリーがある。歩行ラリーとは、これまで話したことが全部入り込んでいるゲーム。例えば「カーブミラーが右手に見えて、コカコーラの看板が左にあったら右に曲がれ」というような指示が書いてある。曲がらなければならない交差点の手前に「左にカーブミラー、右にコカコーラの看板」の交差点があると、指示を復唱しながら違うところで曲がってしまったりする。
奈良県で歩行ラリーを実施したときは、「診察所という看板があったら右」という指示があった。そして曲がるべき交差点の手前には「診療所」の看板があったのだが、全員がそこで間違えて曲がった。すごく時間がかかってゴールしてから「指示で診療所のことを診察所と書き間違えている」と文句を言いにくる。その後、視察として正しいコースを歩くと、道を1本隔てた先に「診察所」と書かれた看板を見つけ、全員が「間違えたのは自分だ」ということに気付く。このように歩行ラリーというのは自分の一瞬の観察力・おっちょこちょいが出る。
「實事求是(じつじぐぜ) 創意工夫」という言葉が中国にある。古い言葉だが、中国では毛沢東が言った言葉として知られている。「事実を求めれば、意識や工夫が作られる」と読むことができ、古くから中国では<チーム・マネジメント>が行われていたということ。毛沢東は、「自分は5億人の民に腹いっぱい飯を食わせたい」と言っていた。「中国を共産主義というイデオロギーにする」といった抽象的なものでは誰も着いてこない。