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GNBC、起業家塾2018/11/15

起業家塾10月例会の報告

「長寿企業になるための条件」

~ファミリービジネス研究からみた事業の革新と事業継続~
静岡県立大学大学院経営情報イノベーション研究科
准教授 落合 康裕

 

ファミリービジネスとは、創業者の家族や親族が代々経営に携わる経営形態の事で、「オーナー企業」や「ファミリー企業」「同族経営」などとも呼ばれています。今回、お招きした落合氏は、ファミリービジネス研究における中心課題である「事業承継」というテーマについて、日本の老舗企業を題材に、その内部で繰り広げられる承継プロセスを分析した著書「事業承継のジレンマ:後継者の制約と自律のマネジメント」を書かれて、「ファミリービジネス学会賞」を受賞されています。
今回は事業の革新と事業継続についてお話いただきました。

事業承継について

事業承継は言いかえれば後継者の育成という事になります。ファミリービジネスにおいて、事業承継は非常に難しい状況にあります。何が大変なのかというと、一つは対立の問題です。しかしながら対立は時にプラスの効果も生み出します。それがイノベーションです。経営革新は違う考えのぶつかり合いの中で生まれてきます。対立はマイナスという見方で片付けると非常に危険。サラリーパーソンの会社の場合は、経営者が実力者の場合は考え方が同質化する事が多い。一方、ファミリービジネスは親子間の対立が行き過ぎてしまうと、会社の存続が厳しい。上手く回す事で、イノベーションが出来るのです。
もう一つは、後継者の行動です。企業を取り巻く環境は変わっているので、そういった環境に適用する必要があります。言いかえると先代と違う行動をするという事。しかし、それは難しい事です。それは先代の時の経営幹部との関係です。後継者が若いとこうした問題はたくさんあります。
中小企業白書によると創業者から二代目への事業承継で、社歴が長くない事業承継の問題は、後継者が事業を継ぎたくないという点。そうなってくると社外への承継です。これがM&Aです。こういう形で事業を承継するケースが目立っています。研究サイドとしては、M&Aだと会社の伝統が無くなってしまうので、社内での継承を勧めています。

 ファミリービジネスの研究について

企業は長期的な利益の構築が基本。これは100年、200年続いて利益を構築するというものです。長寿企業は世界の中で日本が最も多い。2018年3月現在、日本の長寿企業は2万5321社です。第二位はアメリカ、三位はドイツ。日本は断トツです。推定5万2000社あるとも言われています。日本には1000年以上の企業は21社もあります。日本の長寿企業の業種の内訳は酒造、旅館、和菓子の順。原材料が地域と繋がっている企業は長く残りやすいと言われています。

 ファミリービジネスの利点・欠点

同族企業の強みは経営判断が速い事。長期的な経営戦略が立てられる事など。弱みは公私混同がある。社長に頼りがちになる。身内に甘くなるなど。

 事業を次の世代に引き継ぐ時に何が問題になったのか

・社内に右腕となる人材がいない。
・引継ぎまでの準備不足
・役員・従業員からの支持や理解
・金融機関からの借り入れが難しくなった
事業の承継前は銀行の支店長が来ていましたが、後継者になった直後から融資課長が来たという話があります。こういった問題に対しては、重要な商談の時には必ず後継者を出席させる。細かな調整などは後継者を通じて手続きをさせる。これによって、後継者がバトンを受けてからもスムーズに進むことになります。

後継者は複雑な位置付けにある

・後継者は親世代の影響下に置かれている間は自分らしさを発揮しにくい。
・事業継承において後継者に要請される要因として、個人的側面だけではなく、世代間の相互理解や周囲からの受容などの関係性の側面を指摘。
・ファミリー出身の経営者は、自分を選んでくれた前任者や同僚たちへの配慮が必要ない。
・内部昇進の経営者よりも、非連続的な変化を導入しやすい。
生得的地位(生まれながらに将来の経営者になる地位)、獲得的地位(自らの実績で築いた地位。組織におけるリーダーシップの源泉)、制約と自立のジレンマ(ファミリービジネスの後継者は、生得的地位にあるが、獲得的地位が無い為に、ジレンマに陥る)。

 事例研究 大和川酒造店(福島県喜多方市)

1790年に創業した酒造会社。単なる酒造会社ではなく、ファーム(有機米生産販売)や海外販売、ネット販売、百貨店販売などを行う。原料米については契約農家を組織化して、米の栽培部門も持っています。

 今回の研究課題

家業における伝統の恩恵を受けられる後継者(次期経営者として生得的地位保有者)は、能動的行動(経営革新行動)をとる必要があるのか。
後継者は制約と自律のジレンマにありました。また、現経営者世代の後継者に対する貢献が見られました。同族関係にない経営幹部を事業承継のサポートに使っているという事。これは、ファミリービジネスは自分の子供、親、家族は、近しいようで近くない。第三者を通じてコミュニケーションを取る工夫がみられました。後継者の小さな失敗を含む試行錯誤の許容ができる。経営者になる前段階で何度も失敗を積み重ねていく事ができるのがファミリービジネスです。

 継承プロセスにおける後継者の環境

新年の初詣で、同社の場合は最前列には社長が並びます。一般的には副社長や幹部が並びますが、保育園児、小学生であっても、次の後継者が並ぶ事になっています。これは二つの効果があります。小さな時に並ぶ事で、会社とはこういった事なのだと学ばせる事で意識づけになります。もう一つは社員(周囲)へのメッセージ効果になります。
長寿企業の後継者は生まれた時から制約と自律の間に挟まれています。後継者が家業に入ってからの話で現在は9代目です。後継者は社外の経験を経て20代後半で家業に入りました。入ってしばらくすると、専務に昇格。普通は社長に口答えするのはあり得ませんが、血縁関係があるために口答えが発生しました。同社の経営幹部によると、業務上の指示など、親子間では駄目な面もある。兄には口答えをするが、自分に対してはそうではない。一般の社員はその光景を見ているので、厳しく指導した。これは異常事態です。親子間だけならまだしも、周囲がみていたため、「後継者だったら、こういう事は許される」のだとみられてしまう。やはり第三者を経営者と後継者の間に入れる事が望ましいです。
従業員からの後継者に対する特別な視線について、後継者は、いずれは経営者になるというように、従業員から特別な目線で見られる。距離感が出る訳で、互いに気を使う事もあります。後継者の立場からすると仕事がやりづらい。それと後継者へのけん制があります。後継者自身の緊張感を生み出す事にもなります。
社内では距離感が出てしまう事で、外に助言を求めるケースが増えています。例えばコンサル会社、青年商工会議所など。将来イノベーションにつながるきっかけにつながります。

 事業承継のプロセスとして

同社は、最初に後継者は工場に配属。経営幹部は仕事の内容はもちろん、社員の手本になる様な行動をする事を指導。一番下の社員がやっている仕事をする。距離感を埋める取り組みをする事。これによって会社の仕事を覚える。現経営者世代との物理的環境上の距離です。イノベーションは本社から離れた場所から生まれます。同社の後継者は本社から離れた営業所で客先の訪問を行いました。そこではヨーグルトと日本酒をミックスした新商品を開発。こうしたように、本社から離れたところで新しい取り組みを行いました。

 スタートスモールキルスモール(小さな失敗経験の積み重ね)

蜂蜜リキュールを商品化したが失敗作に終わりました。大きな失敗をすると存続の危機になるので、同社では誰がストップをかけたのかというと、先代がストップをかけた。失敗を経験させるが、深みにはまらないうちに辞めさせるのが、この会社のスタイルです。先代世代がやってきたことを自分の世代に成功するかは分からない。しかし、先代世代の事を参照できるというのが強みの一つ。先代とは違う差別化した行動を促すようなプロセスが入っています。現在、事業承継はしていない状況です。これまで各世代、時代、時代に新しい事にチャレンジしています。チャレンジできる環境をどう作るのかというと、前経営者世代の人が自律的な環境を作る。それによって後継者が能動的な行動がとれる。また、外部環境との関わりを持たせ新しいものを生み出す事です。

文責在編集部(CRIM)